ー パロディ百人一首 ー

逢ってしまったばかりに:「逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし」のストーリー

(44番)逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし
 なまじ逢瀬など絶対になかったならば、あなたも自分も恨むことはなかっただろうに。


 もう三十路も過ぎてしまった、しがないサラリーマンのSくんは、きょうは朝から仕事が手についていない様子に見えます。いちおうパソコンには向かっているものの、その目はうつろで画面など見ていないようです。
 実は、彼はかねてからあこがれのY子さんに昨晩ひょんなことから逢って食事をすることができました。彼女はどうわけか、そのとき大きな苦悩の種を抱えていたらしく、普段はつれないSくんに対して極めて親密に相談話をもちかけました。そしてお互いに酔ったいきおいもあり、そのあと関係をもってしまいました。
 その晩のSくんが有頂天だったことはいうまでもありません。彼は興奮のあまり帰宅後一睡もできず。今朝になって喜び勇んでY子さんに電話しました。ところが彼女は、「きのうのことはなかったことにして。もう逢わないで」と昨夜とはがらっと口調を変えて冷たく言い放ちました。
 Sくんは、一度関係をもったばかりに、かえってその後逢ってくれない冷たさに相手を恨み、そして自分のせつなさを、こう嘆くことになりました。「いっそのこと、このまま完全な片思いが続いて、逢う機会などまったくなかったほうがよかったのに」と。

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