ときとともに激しく推移する男の恋心を、宮廷の衛士が焚くかがり火にたとえています。この心の状態の変動があまりにも極端なので、作者はまるで、複数の顔をもった阿修羅のように、自分自身をみなしています。それぞれの「顔」は語ります。
夜の顔「今夜こそ、あの女(ひと)のもとを訪れ、切ない胸の想いを打ち明けよう。うまくいくかな。おやっ、あの炎は衛士のかがり火じゃないか。オレの心もあの燃えさかるかがり火のように、熱烈な恋の炎に燃えているんだから、きっとこの恋は成就するに違いない!」
昼の顔「クッソーあの女(おんな)、オレを一晩中門の前で待たせたあげく、朝になったら『まだこんなところにいたの?』といって追い返しやがった。あれっ、あの衛士のかがり火ももう消えているのか、そうか、まるでオレの消えてしまった恋の炎みたいだな」
表の顔「うーむ、恋の煩悩というのは実に罪深いものだが、いちいち一喜一憂、取り乱して、『もてない男』とか『ストーカー』などと噂され、世間から後ろ指をさされるのもバカげたことだ。とにかくここは、この心の動揺を人に悟られぬよう、ひたすら仏道、勤行に励んで、平静を装っていることにするか」
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