愛と死をみつめて:「あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな」ストーリー

(56番)あらざらむこの世の外の思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな
 この現世を離れて来世に行く思い出に、もう一度あなたに逢いたいものです。


 和泉式部は恋多き女性でした。その彼女が晩年になり、自らの命が残り少ないことを自覚する中で愛する人にもういちどだけ逢いたいという情念を詠った歌だとのことです。
 ところで、ここに不幸にも若くして不治の病におかされ、余命わずかになってしまったミチコさんという女性がいます。実は、彼女にはマコトさんという恋人がいて、何度もお見舞いに来て、励ましてくれたのですが、今は事情により、離ればなれになっています。
 彼女は自分の残り少ない人生のなかで、もうマコトさんとの再会がかないそうもないことを嘆き、心のなかで、彼にこう呼びかけました。
 「マコトさん、これまでずっと、甘えてばっかりでごめんなさい。ミチコはとってもしあわせでした。
 お医者さんから、残りの命が少ないことを告げられた、あの日、わたしはあなたの前で泣きじゃくって、愚痴を言い続けていましたっけ。でもそんなとき、あなたは何も言わず、そっとわたしの涙をふいてくれた…なんてやさしいひと。
 願わくは、この身が召される前に、ぜひもういちど逢いたい」

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