市女笠 紫式部:「めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半の月かな」のストーリー

(57番)めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半(よは)の月かな
 あなたはこの夜半の月のように、めぐり逢って見たかどうかも見分けがつかない間に雲に隠れていなくなってしまった。



 作者紫式部とその幼友だちとの再会を題材としています。諸説ではこの友人が訪ねてきたという設定です。当時宮中にいた女房が、しかも夜に外出することなどめったになかったので、当然と言えますが、外で再会したというのも風情がありそうです。どちらにしても、月明かり程度の明るさでは、人の顔の区別も実際につきにくかったことでしょう。
 この歌にヒントを得て、こういうおとぎ話はどうでしょうか。この絵の主役は、月夜に幼友だちと出会うことになっていたようですが、しかしその人は逢ったとたん、あっという間に消えてしまいました。実はその〝友だち〟の正体というのは、一匹のキツネであり、友人との再会を果たしたいという彼女の願いをかなえるために、ほんの一瞬その友人に化けてやったのでした。こんな感じなら、「狐につままれる」のも悪くはありません。
 ところで「雲がくれ」で連想するのは、『源氏物語』の「雲隠」の帖(タイトルだけで本文が何もなく、ここで光源氏の死が暗示されている)です。そこで、この「雲がくれ」を「死」ととると、「久しぶりに会った友人がそのあと突然逝ってしまった」という意味にもなるかもしれません。えっ曲解にもほどがあるって(笑い)。

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