戯れ:「春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ」のストーリー

(67番)春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ
 春の夜の夢のようにはかない手枕のために、つまらない噂が立ち名前を汚してしまうことが惜しいことだ。


 この歌の背景はこうです。旧暦二月の月の明るい夜(新暦では四月初めの頃か)、二条院に上流階級の人びとが集まっていろいろ雑談していたとき、作者の周防内侍(すおうのないし)は眠くなってうとうとしました。このときに近くにいた大納言藤原忠家が、御簾の下からそっと腕を出して(その当時、身分の高い男女同士は〝特別な関係〟になってない限り、直接顔を見合すことができませんでした)、「ボクの腕枕で寝ないか(ボクと一夜をともにしないか)。」と冗談半分に語りかけたといいます。
 この種の、現在でいえば完全にセクハラまがいの言動も、当時のサロンではごくありふれたジョークにすぎなかったのでしょう。こんなエロっぽい申し出は、もし男性の側が本気であれば一対一の場で行うものなので、公然とこれを行うのは、相手の女性の機転を試すのが目的です。
 これに対して女性の側は、実際の気持ちがどうであれ、本気にこれに応じたら、それこそ大スキャンダルになりますので、恥ずかしがって何も言えずにいるか、あるいはこの歌のように、即座に切り返すかのどちらかです。後者の対応ができない場合、女性に恥をかかせ、心の傷を残すことになりますので、やはりこの言動は、非道なセクハラといえます。

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