宇宙遊泳:「天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも」ストーリー

(7番)天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも
 大空の遠くを眺めると月が見えるが、この月は春日大社のあたりの三笠の山に出ていたような月なのだろうか。


 その昔(奈良時代)、遣唐使の阿倍仲麿ははるか異国の唐から月を見て、帰ることができない日本の奈良の都をしのび、この歌を詠んだと伝えられています。
 現代では旅行や仕事で海外に渡航することが容易になり、その目的や任務が何らかの危険を伴うものでもない限り、旅行者は、無事に帰国できないかもしれないなどとは通常考えません。したがって、「また故郷で同じ月を見れるか」というような心配もしません。
 ならば、宇宙飛行士はどうでしょうか。飛行士のマモルさんが〝宇宙〟(といってもたかだか地上数百キロ上空の大気圏外)空間を遊泳していると、目の前に鮮やかな満月が見え、ふと下界に目を移すと、そこには故国の日本列島が。マモルさんは思いました。
 「もうあと数日で地球に帰還するのか。だいじょうぶかなあ。過去に大気圏突入の際などに不測の事態が起きているようだから、自分も生きて帰れるとは限らないわけだ。そう思うと、阿倍仲麿が昔、月に望郷の念をこめた心境がよく理解できるような気がする。そうだ、そのときに何かあっても心残りがないように、今月今夜のこの月の姿をしっかりこの目に焼き付けておこう」

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