里山の秋風:「夕されば門田の稲葉おとづれて 芦のまろ屋に秋風ぞ吹く」のストーリー

(71番)夕されば門田の稲葉おとづれて 芦のまろ屋に秋風ぞ吹く
 夕方になり、家の前の田んぼを訪れると、芦ぶきの家の屋根に秋風が吹きわたっていることだ。


 現代にも共通する、のどかな秋の里山風景が思い浮かんできます。ネット上の解説では、ここで出てくる「芦のまろ屋」は農民の自宅のことではなく、貴族の別荘とのことです。
 ここでは、この「のどかさ」をどう表すか悩んだあげく、一頭の〝ウシ〟を登場させることにしました。今でも地方の牧場などでのんびりと草を食んでいるウシを見て心が癒されますが、しかし彼らが肉牛または乳牛として最後に待ちかまえている過酷な運命を思うと、それほど心なごめる気分にはなれません。
 これに対して仏教の考え方が支配していた平安時代は、ウシといえば殺生の対象ではなく、農耕作業、物資の運搬、主に貴族の移動手段としての牛車の牽引など、労役に使われていました。現在のようにのんびり生活できても最後に屠殺されるのがいいか、それとも当時のようにときには酷使されても生を全うできるのがいいか、「本人」に聞かないとわかりませんが、少なくとも生きてさえいれば、秋の夕暮にたたずんでいる〝彼〟が「やれやれ、涼しい秋風が吹くような季節になってきたか。モーこれでしばらくはきつい野良仕事でご主人さまにこき使われ…じゃなかった、お仕えすることから解放されるわけだ。」と一息つく機会もあることでしょう。

0件のコメント

コメントを残す

Avatar placeholder

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です