「初瀬」とは長谷寺(奈良県桜井市初瀬)のことで、この歌にあるように、恋愛の件についてもご利益があるとされています。ところが本尊の十一面観音に祈ってみたけれど、逆に二人の仲がいっそう激しく、険悪になってしまったことをここで嘆いています。
まったくのところ、「神頼み」とはあてにならないものです。「そんなことに、時間、労力、金銭を費やすくらいなら…」というのは確かに正論に違いありません。でも自力ではどうにもならない、他人(恋の対象)の心をなんとか変えるには、結局は、「神頼み」に行きつくしかないのかもしれません。
しかし、今回の主人公の男性は、長谷寺参りにあたって、「彼女がボクに好意的になれば、それはボクが魅力的だから。もし彼女の心が変わらなければ、それは観音様が無能なせい」などと、不遜な考えをいだいています。でもこんなことは、十一面観音にとってはすっかりお見通しです。観音様は彼を懲らしめるべく、十一面のすべての口という口から強烈な山おろしを彼に吹きかけます。彼はその冷たさに身震いするとともに、彼女の心もさらに冷淡になったのだと悟り、こう嘆きました。「よってたかってボクに冷たい風を吹きつけろなんて、祈ってないのに」
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