その昔、平安時代には〝通い婚〟の風習があり、貴族の男性は、妻にしたい女性の家を夜訪れ、首尾よくその女性と一晩を過ごせた場合には、翌朝帰宅してからすぐ「後朝(きぬぎぬ)の手紙」を届けました。この「きぬぎぬ」という言葉は、当時男女それぞれの脱いだ着物(衣(きぬ))を重ねて布団代わりにし、その上でコトに及んだため、次の日の朝のことを「きぬぎぬ」と呼んだことから来ています。この手紙は、相手の女性に対して少しでも誠意があれば必ず出すべきものとされていました。
通常、その手紙の中では、「ボクのあなたへの気持ちは末永く変わらないよ」という趣旨の気の利いた歌とそれに続くひとことが記載されています。しかし、そうは言われてみたものの、女性の側では、その男性の本心を図りかねて、昨夜からの夜通しの〝営み〟で乱れた黒髪のように心も乱れ、物思いにふけっています。この歌はそんなせつない女心を詠んだ歌とのことです。
ところで、この手紙に相当するのは、現代ではさしずめ「後朝の電話」といったところでしょうが、最近は髪を茶髪系に染めるのが一般的なので、「長い黒髪」ということになると、あのなつかしいダイヤル式電話の時代まで少し戻らなければならないでしょう。
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