声はすれども:「ほととぎす鳴きつる方を眺むれば ただ有明の月ぞ残れる」のストーリー

(81番)ほととぎす鳴きつる方を眺むれば ただ有明の月ぞ残れる
 ほととぎすが鳴いた方角を見てみると、ただ有明の月が残っているばかりだった。


 夏の訪れを告げるホトトギスの第一声を聴くのは雅(みやび)なこととされ、人びとは初夏の朝早く出かけてまで、その鳴き声を聴きにいったそうです。しかしそれは、はるか昔の話。
 ここに登場するのは、新社会人のNくん。幸いにも彼が入社した会社はいわゆる〝ブラック企業〟ではなかったものの、配属先の職場の雰囲気にあまりなじめず、仕事の内容もなかなか覚えられません。そのような状況で5月も半ばとなり、Nくんにとっては、気分のすっきりしない日々が続きました。
 そんなある日、帰宅途中で学生時代の友人に偶然出会い、お酒を飲むことになりました。お互いにそれぞれの会社の悪口で大いに盛り上がり、Nくんはそれこそ浴びるほど飲んで、前後不覚状態になりました。
 どれくらいたったでしょうか。けたたましい鳥の鳴き声で目を覚ますと、Nくんは自分が公園のベンチに座っていることに気がつきました。そしてその鳴き声の方向を見上げたものの、声の主の姿はすでになく、見えたのは有明の月だけでした。Nくんは思いました。「これは例のホトトギスの声かもしれない。してみると、もう夏になるのか」
 Nくんは今後のことに思いを巡らしながら、しばらくぼんやりと月を見ていました。

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