この場合の「道」とは、「悲しみを逃れる道」とされています。そしてこの道(手段)が見出せないので、俗世間を脱して山ごもり(出家)してはみたが、そこでもシカが悲しそうに鳴いていた。というのが、この歌の主旨だそうです。
当時の皇族、貴族は、世の中が「いやになったから」出家して仏門に入るケースが多かったようですが、現在ではそこまですべての余生を信仰に捧げることは少なく、せいぜい〝座禅〟や〝霊場めぐり〟など、一時的な〝修行〟にとどまるのが一般的です。
そこで今回は、失恋の痛手を負っているロッククライマー、イワオくんのお話をとりあげます。彼のこの痛手は酒、ギャンブルなどでは紛れることはなく、唯一の逃避先はやはり岩場です。
ある秋の澄み切った空の下、イワオくんは、いわば〝穴場〟のような岩壁を少しずつ登っていきます。この日は平日ということもあり、案の定まわりに人影はまったくありません。久しぶりに穏やかな気分に浸った彼がもう少しで頂上というところまでたどりついたとき、突然上の方から雌を求める雄シカの切ない鳴き声が。やはりどこに行っても、恋の煩悩から逃れられることはないのです。
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