失意のひとり寝:「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む」のストーリー

(91番)きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む
 コオロギが鳴いている。この霜の降りる寒い夜にむしろを敷き、ひとりさみしく寝るのだろうか。


 ここでいう「きりぎりす」とは現代では「コオロギ」のことを意味します。
 コオロギが寒い夜に鳴いている。自分はといえば、ひとりでむしろの上に自分の着物だけを敷いて(平安時代は男女が共に寝る場合は二人の着物を布団代わりに敷きましたので、「かたしき」とは男女どちらか片方の着物だけを敷くということ)寝ている…
 実に寒々しい光景ですが、現代ならば、たとえばこういう「ひとり寝」のシチュエーションはどうでしょうか。
 肌寒い秋の夜、失恋したばかりの男性が、ひとりダブルベッドで寝ている。すると、どこからともなくコオロギが入ってきて、かつての恋人の女性が使っていたとなりの枕の上で鳴き始めた。この寂しい声にふと目を覚ました男性が枕元の灯りをつけてみると、コオロギのいるその枕には、まだ女性が寝ていた当時の頭部の痕跡と、彼女が残していった数本の髪の毛がそのままにされていた。彼には、その枕を片づけることはできなかったのである。なぜなら、彼女の思い出をまだ清算したくなかったから。何という未練がましい男なのだろう!
 こちらのほうも、身も凍るほどの寒々しさです。

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