魚が釣れずに待ちぼうけ:「世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも」のストーリー

(93番)世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも
 今の世は永遠に変わってほしくないものだ。波打ち際を漕ぐ小舟の海人に心を動かされる。


 作者の源実朝自身は、どちらかというと完全な〝文化人〟であり、鎌倉幕府の将軍として武家社会を治めていく資質には欠けていたといわれます。彼が何にもまして願うのは平和な世の中でした。その象徴として、この歌では、「渚を漕ぐ漁師の小舟が綱で浜につながれている」のどかな情景をとりあげています。彼はこのような平穏な世の中がいつまでも続いてほしいとの願望が強かったのですが、その願望を現実化するための政務(ときには権力闘争)から遠ざかりがちで、和歌を好み、朝廷から次々に高い官位を得ているうちに、悲劇的な最期を迎えたといわれます。
 ここでは、この歌の世界を残しつつ、現代風の「のどかさ」も追加しました。昔の漁師の手漕ぎの小舟が、まるで忘れ去られたかのように、浜辺につながれたままになっている…そして、釣り人がこの風景を防波堤の上から眺めながら、海釣りに興じている…
 こののんきな釣り人はそれほど「成果」を求めているとは思えず、なんとなく釣り糸をたれているありさまでした。それでいつまでたっても一匹の魚も釣れず、その側でおこぼれを狙っていた野良ネコともどもついに居眠りしてしまいました。なんという平和な光景でしょうか!

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