かつて都の離宮があったとされる吉野(奈良県、現在では桜の名所)で晩秋の夜に風が吹き、砧(きぬた)を打つ音が聞こえてくるといった寂しい光景を詠んだ歌といわれています。ここで「衣を打つ」とは、この砧という棒と台を合わせた道具(この絵で描いているものはそのひとつの例)で生乾きの布を打って柔らかくし、かつ光沢を与える作業で、今でいうアイロンがけに似たものだったようです。
この歌では、今ではすっかりさびれて吉野で、「秋風が吹いている」、「夜が更けている」とその寂しさをあおりたてる舞台設定をしてから、さらにその吉野で「衣を打っているよ」と追い打ちをかけているように思えます。しかし、「秋風」、「夜」、「砧」の三要素がそろうのは京の都でもありふれた現象ですので、それだけで即寂しいのではなく、吉野の場合は「京と違ってほかに物音がしないので、砧の音がはっきりと聞こえる」、だから寂しいのだといいたかったのでしょう。
ところで、この絵にどうしてタヌキが登場するのでしょうか。その答えは、「タヌキの砧」は、上から読んでも下から読んでも「タヌキのキヌタ」であり、おもしろいそうだということです(笑い)。でも描き終えてみると、どことなくメルヘンチックな感じも?
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