定年後の一人住まいと赤とんぼ: 「八重むぐら茂れる宿の寂しきに 人こそ見えね秋は来にけり」 ストーリー
『パロディ百人一首』より

定年後、妻に先立たれた初老の元営業マンの男性が、自宅の庭からの風景をながめながら、妻との出会いと悲しい別れの回想にふけります。そして彼は、その場から自らの立ち直りのきっかけを求めての悪戦苦闘を開始します。

SNS、隣家の少女とその祖母との心温まる交流、妻の昔の仲間たちからの励ましなどを通じて、彼の心の悲しみと喪失感は徐々に癒されていきますが、そこに突然妻の過去の秘密が明かされます。

この小説は『パロディ百人一首』に載せた

八重葎しげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり

のストーリーからヒントを得ていますが、想定している主人公はこのイラストよりもずっと髪の毛も多く(笑い)、すてきな中高年男性です。

小説 『八重葎』 少女 ネコ
ネコの「ノソ」を抱くヒカリちゃん

作品は2つのファイル(PDF)に分かれており、以下のリンクから入手できます。

それぞれのファイルはサイズにして500Kバイト以下であり、1ページあたり400字(全141ページ)とかなり大きめな文字となっていますので、スマホを横向きにして読むのに適しています。

お使いのPCまたはスマホにこれら2つのPDFファイルを保存した上でお楽しみください。

小説のエピソード

『八重葎』で主人公夫婦が最後に観光に訪れたとされた、岩手県の北上川沿いの桜の名所についてご紹介します。この「北上展勝地」と呼ばれるところは、北上市内を流れる北上川の、市街地から見て対岸に広がる長大な桜並木で、毎年4月下旬の見頃の時期には多くの花見客でにぎわいます。

今回ここに掲載する写真は、小説の中で取り上げられている「観光馬車」と「鯉のぼり」を被写体としたもので、2014年4月に撮影したものです。以下、該当箇所の引用文とともにご紹介します。

北上展勝地 観光馬車

 ふたりで馬車に揺られて桜並木を進んでいると、トモ子は、
 「ああ、こうしていると夢のよう。まるで天国からのお迎えの馬車みたいね」
 と静かにつぶやきました。私はいつものように下手な芝居でむきになって、この「天国」という言葉をたしなめることもできましたが、このときはそこまでして彼女の清らかな気分を壊すべきではないと思い、ただただ彼女の手を強く握りしめて、「うんうん」という感じでうなずきました。私のほおの上を涙が流れ落ちました。

(31ページ)

北上展勝地 鯉のぼり

 春真っ盛りの北上川。川をまたいでロープがかけられ、そこに数多くの鯉のぼりがつるされていた。川沿いの遊歩道の両側には桜並木が延々と続いていた。

(67ページ)

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