昇進祈願:「契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋も去ぬめり」ストーリー

(75番)契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋も去ぬめり
 約束していたよもぎ草の露のようなありがたい言葉をあてにしていましたが、それもかなわず、ああ今年の秋も過ぎていくようです。


 「させもが露」とは、ネット上をいろいろ調べた限りでは、頼んでおいたことに対して「私に任せておきなさい」というような意味らしいのです。これについての詳しいいきさつは省きますが、この歌のおおよその背景は次のとおりです。
― 作者の息子のお坊さんがある名誉ある役職に取り立てられるように有力者に頼み、色よい返事を得たと思っていたところが、いっこうにその気配はなく、そのうちに季節が変わって秋も過ぎようとしている ―
ということで、この歌はそんな嘆きの感情を詠んだらしいとのことです。
 そこで今回の主役は、似たような境遇に置かれているサラリーマンのスズキ課長です。彼は、五十台を迎えるまでこつこつ仕事をしてきて、周囲の受けも悪くはありません。そんな彼に上役はある日、軽い口調で「部長の席が一つ空いているんだが、君どうかね」と話しかけました。その後、飲み会の場でも同じようなことを繰り返しますので、スズキ課長もこれを真に受け、今か今かと待ちました。しかし、一向にこの約束は実現しそうになく、そしてついに、秋の終わりにあたり、彼はいまや、祈るような気持ちになりました。
 次の「肩たたきのあと」に続く

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