夜も明けきらず「夜もすがらもの思ふころは明けやらで ねやのひまさへつれなかりけり」のストーリー

(85番)夜もすがらもの思ふころは明けやらで ねやのひまさへつれなかりけり
 つれない人のことを夜通し思い悩んでいた夜も明けきらず、寝室の隙間でさえ無情に思えてくることだ。


 夜通しでいとしい人を想って、なかなか夜が明けず、寝室の隙間でさえつれないものに思えてくる…
 この歌は前回の歌と同様男性の作者が女性の気持ちをおもんばかって詠んだといわれています。俗世を捨てて出家しているのに、こんなキザで俗っぽい歌を詠むんかいな、俊恵さん。
 そこで前回登場したお嬢さんを再登場させましょう。好きな人に逢えず、その夢さえも獏に食べられた彼女は、彼のことを思い悩んで、今では夜もなかなか眠れなくなっています。今夜はこれに暑さによる寝苦しさも加わり、悶々として一睡もできません。
 そしてついに夜明けの頃とになり、カーテンの隙間から日の光がさしてきました。この光明も、悩み苦しんでいる現在の彼女にとってはやはり無機質に感じられますが、同時に「私は前に進まなければならない」という何か人生の転機になるような啓示を与えたらしいのです。そこで彼女は、おもむろにベッドから起き上がって鏡を見つめます。
 鏡に映ったそのやつれた顔はやはり痛々しいのですが、しかし一方で、どこか吹っ切れたものも感じられます。

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